再び入院、そして春になる


梅の花も散り、沈丁花が匂うようになりました。
いつの間にやら春がやってきて、年が明けてからというもの、何とも落ちつかなかった生活が、ようやく日常を取り戻し、日々がすぎてゆきます。


1月の体調不良が続く中、大寒の翌日には再び緊急入院し、翌日にはまた手術をすることを余儀なくされ、急転直下、復帰公演も絶望的となり、頭の中は真っ暗になりました。

術後まだ9ヶ月で、前回よりも更に大変な難しい手術となると言われ、それだけは勘弁をと言ってはみたものの、体が第一であることに違いはなく、再びもがき苦しみながら、あきらめの境地で覚悟を決め、一晩を過ごしました。
この一日で、舞台復帰は夢となったのでした。


ところが朝になると、苦しみぬいた症状が治まってきて、朝の検査結果と前日のMRIの再検証のもと、病状が好転しはじめたので、その日の手術が1度見送りになったのです。
先生方全員で驚かれて、経過を様子見としてくださり、何より私自身がキョトンとしたのでした。

その手術予定とされて見送られた日、ひとまず一般の病室に移されると、窓の外遠くに、雪のかぶった山が見えました。冬の清んだ空気の遥か向こうにそびえるその山は、浅間山でした。
何かが「大丈夫、やれるよ」と言ってくれてるような気がしました。
目指していた、そして絶望的になったはずの復帰公演は、浅間山のある軽井沢での初公演です。


その日を境に病状が落ち着いてきて、結局点滴治療の入院のみで、手術をせず退院することができました。まさに奇跡でした。


ジェットコースターのような入退院を終えてからも、あれやらこれやらの日々が続き、今に至りますが、それでもあの奇跡のおかげでこうしていられることに、感謝の思いです。

7月には軽井沢にて舞台復帰いたします。



あの入院した前日、国立能楽堂で金春の「翁」を観て、邪気を払ってもらったはずなのに、翌日にこんなことになってしまい、もがきながら「翁よ、なぜ…」と呟いていましたが、急転直下からの奇跡に、翁の効力は時間差でやってきました。
ありがたし。


春になりました。
これからしっかりと体力をつけて、舞台に向けての日々を送りたいと思います。

やはり春になることは、鳥も花も猫も人も、にぎやかになっていくものだと、まわりを見渡しながら微笑ましく感じています。



それと同時に、あれから8年の歳月がすぎ、今もなお故郷に帰れぬ方々、悲しみが癒えぬ方々の、果てしなく長い道のりに、非力をなげくより、思いをはせることを忘れずにいたいと思います。
昨日涙雨となった被災地にも、あたたかな春がおとずれることを願っています。



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